ブラジャーで天下をとった男 ワコール創業者 塚本幸一

ブラジャーで天下をとった男 ワコール創業者 塚本幸一

インパール作戦の生き残りが選んだ次の武器、それは女性下着だった!

太平洋戦争は多くの悲劇を生み出したが、数ある激戦の中でもとりわけ悲惨なものとして知られるのがインパール作戦だ。世界有数の女性下着メーカーとして知られるワコールの創業者、塚本幸一は、この作戦の生き残りであり、多くの戦友を失った心の傷は生涯消えなかった。

かつてこの国は、今とは比較にならない男尊女卑の国であった。男が産まれると喜び、女が生まれると露骨なほど落胆を見せた。家長はもちろん、国を支えるのは男であり、女はそのしもべのような扱いを受けた。だがこの国を破滅させたのは、国を支えるはずの男だったのだ。

銃後を守る女性たちに「贅沢(ぜいたく)は敵だ!」と忍耐を求め、頭にパーマなどかけようものなら「非国民!」とののしった。「産めよ増やせよ」と子作りを励行し、その子どもたちを次々に戦場へと駆り立てては、物言わぬ白木の箱に入れて帰した。その果てが無残な敗戦である。

(真の平和とは、女性の美しくありたいと願う気持ちが自然と叶えられる社会であるはずだ)
そう確信した彼は、女性のために女性とともに、ビジネスの世界で再び戦いを挑んでいった。

磁力のような人間的魅力で優秀な仲間や“伝説の女傑(じょけつ)”たちを集めると、ライバルを蹴散らし、日本に上陸したアメリカ企業を手玉に取り、成長の糧(かて)にしていった。わが国最強の商人集団である近江商人の血を引く彼は、失った命を力に変えて、ビジネスという戦場で思う存分暴れまくったのだ。

そして彼の活躍の場は、業界の垣根をも越えていった。父のように慕った“経営の神様”松下(まつした)幸之助(こうのすけ)と政治の世界にもの申し、弟分であった京セラの稲盛(いなもり)和夫(かずお)と力を合わせて京都を盛り上げ、盟友であるサントリーの佐治(さじ)敬三(けいぞう)とともに、新たな文化を築き上げた企業こそが尊敬に値するのだと怪気炎を上げ、重厚長大企業が幅をきかせる財界に下克上を挑んでいった。

熱い、どこまでも熱い。そんな熱い男のベンチャースピリット溢れる豪快華麗な生涯を描きだす大型評伝、ここに誕生!

四六 判( 392 頁)
ISBN: 9784833425025

2023年06月15日発売 / 2,090円(税込)

[著]北 康利(きた・やすとし)
昭和35年12月24日、愛知県名古屋市生まれ。富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末にみずほ証券退職、本格的に作家活動に入る。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞受賞)『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』『吉田茂 ポピュリズムに背を向けて』(以上講談社)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』『小林一三 時代の十歩先が見えた男』『稲盛和夫伝 利他の心を永(と)久(わ)に』(以上PHP研究所)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『胆斗の人 太田垣士郎 黒(クロ)四(ヨン)で龍になった男』(文藝春秋)、『乃公出でずんば 渋沢栄一伝』(KADOKAWA)、『本多静六 若者よ、人生に投資せよ』(実業之日本社)などがある。

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目次

  • プロローグ

  • 第一章 復員兵ベンチャー起業家

  • 復員船での誓い

  • 護国神社で見た衝撃の光景

  • 帰還したその日からのスタート

  • 和江商事設立

  • 真っ正直な商売

  • 変装して勝ち取った代理店契約

  • 右腕となってくれた二人の同級生

  • “にせオッパイ”との出会い

  • 女性社員第一号

  • 危機の中から生まれた「五〇年計画」

  • 宗教に心のよりどころを求めて

  • 東京飛脚

  • ブラジャーへの進出

  • 四条河原の決戦

  • 株主総会の練習

  • 第二章 男の戦争、男の敗戦

  • 日本最強の商人集団・近江商人

  • 仙台を追われて

  • 近江商人の士官学校

  • マザコン美少年が引き起こしたラブレター事件

  • 深まりゆく戦時色

  • カフェー女給との恋

  • 初陣となった浙東作戦

  • 幹部候補生試験で味わった挫折

  • インパール作戦と白骨街道

  • 第三章 ブラジャーでビルを建てた近江商人

  • ロミオとジュリエット

  • 社長退任と引き替えに手に入れた製造工場

  • 警察官に啖呵を切った女傑

  • “千枚通し”のスパルタ教育

  • クーデターによる社長復帰

  • 下着ショー

  • 立ちふさがる半沢商店

  • 業容急拡大の裏で陥った倒産の危機

  • 難攻不落の東京市場への挑戦

  • 窮地を救ったジュードー・サンチュールと宇野千代マフラー

  • 生涯の友・千宗興との出会い

  • 黒船襲来

  • 黒船を“踏み台”にして

  • 逆張りの発想で得た貴重な“人財”

  • 巻き起こった下着ブーム

  • 日本一の男前社長

  • 鴨居羊子参上!

  • ブラジャーの神様

  • 遺書を用意しての欧米視察

  • 想像以上だった欧米の下着市場

  • 難攻不落の三越を攻略

  • 悪いこと四太郎会

  • 第三の女傑──下着デザイナー下田満智子

  • 新社名ワコールでの船出

  • 第四章 相互信頼の経営

  • 命がけの労使交渉

  • 開眼した相互信頼の経営

  • 駆け込み上場

  • 社是に込めた思い

  • 新本社建設と奥忠三の死

  • “愛”をテーマに万国博覧会出展

  • シー・ユー・アゲイン!

  • パンツ屋の虎退治

  • 坊主頭で誓った常在戦場

  • 社長退任宣言

  • 第五章 アメリカに商売を教えてやる!

  • アメリカ進出

  • “新経営の神様”稲盛和夫との友情

  • 京都商工会議所会頭就任

  • 能交への社長交代

  • エピローグ 霊山観音

  • あとがき

  • 塚本幸一関連年譜

  • 参考文献