クリティカル・ビジネス・パラダイム

クリティカル・ビジネス・パラダイム
社会運動とビジネスの交わるところ

私は、本書を通じて、ある希望にみちた仮説をみなさんと共有したいと思っています。
その仮説とは、社会運動・社会批判としての側面を強く持つビジネス=クリティカル・ビジネスという新しいパラダイムの勃興によって、経済・社会・環境のトリレンマを解決するというものです。

私は2020年に著した『ビジネスの未来』において、安全・快適・便利な社会をつくるという目的に関して、すでにビジネスは歴史的役割を終えているのではないか?という問いを立てました。原始の時代以来、人類の宿願であった「明日を生きるための基本的な物質的条件の充足」という願いが十全に叶えられた現在、私たちはビジネスという営みに対して社会的意義を見出せなくなりつつあります。

この問いに対する前著での私の回答は「条件付きのイエス」というものでしたが、その後も、営利企業あるいはビジネスの社会的存在意義に関する議論が沈静化する兆しはなく、世界経済フォーラムをはじめとした会議の場においても、この論点は主要なアジェンダであり続けています。

ここ数年、世界中で盛り上がりを見せている「パーパス」に関する議論も、この「この ビジネスに社会的意義はあるのか?」という、素朴だけれども本質的な質問に対して応えることのできなかった人々が引き起こした一種のパニック反応だと考えることもできるでしょう。

私は、本書を通じて、このウンザリさせられる問いに対して、ある仮説としての回答を提唱したいと思います。それが前述した命題、すなわち「社会運動・社会批判としての側面を強く持つビジネス=クリティカル・ビジネスという新たなパラダイムの勃興によってそれは可能だ」という回答です。

四六 判( 280 頁)
ISBN: 9784833425353

2024年04月26日発売 / 2,090円(税込)

[著]山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストンコンサルティンググループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?(光文社新書)』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『自由になるための技術 リベラルアーツ』(講談社)、『ビジネスの未来』(小社刊)など多数。神奈川県葉山町に在住。

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目次

  • 第1章 クリティカル・ビジネス・パラダイムとは?

  • いったい、何が起きているのか?

  • 品質や機能ではなく、「哲学」が求められている

  • ビジョンに顧客や市場という概念が含まれていない

  • マーケティング理論では説明がつかない

  • 市場に存在しない問題を生成する

  • パラダイムの転換が起きている

  • なぜ「クリティカル」なのか?

  • クリティカル・ビジネスとアファーマティブ・ビジネスの違い

  • なぜ「ビジネス」なのか?

  • 教養のないビジネスパーソンは「文明にとっての脅威」

  • 企業コミュニケーションによって社会は啓発される

  • いわゆる「ソーシャル・ビジネス」との違い

  • 少数派であることの重要性

  • ブランディングとは「アジェンダの旗取り合戦」

  • 多数派のアジェンダに後乗りするのは先行企業を育てるのと同じ

  • 「問題」はどうやって生まれるのか

  • なぜデザイン思考はさしたる成果を残すことができなかったのか?

  • すべての問題は存在しない

  • 第2章 クリティカル・ビジネスを取り巻くステークホルダー

  • クリティカル・ビジネス・パラダイムにおける顧客

  • クリティカル・ビジネス・パラダイムでは顧客は批判・啓蒙の対象となる

  • なぜ自動車は「大きく、重く、うるさく」なっているのか

  • センスの悪い顧客を相手にするとセンスの悪い商品ができる

  • 「ダメな顧客」を重視すれば世界がダメになる

  • 美意識も教養もない「甘やかされた子供」

  • 顧客の要望に対してクリティカルであるのが本当の「顧客志向」

  • クリティカル・ビジネス・パラダイムでは顧客は社会運動のパートナーとなる

  • クリティカル・ビジネスでは競合企業は社会運動の同志となる

  • クリティカル・ビジネスは「大木」ではなく「森」を生み出す

  • クリティカル・ビジネスはゼロサム・ゲームではない

  • ゼロサム・ゲームはスジの悪い戦い方

  • クリティカル・ビジネスにおける投資家

  • 投資家の期待値をコントロールする

  • 第3章 反抗という社会資源

  • 反抗は社会資源である

  • 反抗が連帯を生み出す

  • 国ごとで「反抗的な度合い」は異なる

  • 反抗は社会開発のエンジン

  • 批判的・反抗的であるからこそ惹かれる

  • 世界最高のCMは「敵の宣言=宣戦布告」

  • 否定神学による社会の彫琢

  • 第4章 クリティカル・ビジネス・パラダイムの背景

  • クリティカル・ビジネス・パラダイム台頭の構造原理

  • 資本主義と市場原理は「大きな問題」から解決する

  • 資本主義と市場原理の限界

  • クリティカル・ビジネス・パラダイムによる構造転換

  • 「他者へ共感する力」が変化を生み出している

  • 「遠くの他者」と「未来の他者」への共感

  • 社会運動に起きている変化

  • 社会運動は激増している

  • 社会運動は「私のため」から「他者のため」に

  • 社会運動の質的転換の理由

  • 起きているのは「欲求の抑制」ではなく「新たな欲求の台頭」

  • 「解放」と「禁欲」の二項対立を超える

  • 脱物質化する世界

  • 価値観の変化は相転移のように起きる

  • 社会変化は「少数派」によって牽引される

  • 第5章 社会を変革したクリティカル・ビジネスの実践例と多様性

  • クリティカル・ビジネスの「クリティカルさのパターン」

  • 1.支配的価値観への批判|フォルクスワーゲン社による「Think Small」キャンペーン

  • 2.貧困と経済的不平等の解決|グラミン銀行

  • 3.気候変動・資源枯渇への対応|Patagonia(パタゴニア)、Fairphone(フェアフォン)、TESLA(テスラ)

  • 4.企業倫理と透明性の向上|The Body Shop(ザ・ボディショップ)

  • 5.労働者の権利と福祉の改善|モンドラゴン協同組合

  • 6.ダイバーシティとインクルージョンの推進|IKEAイスラエルによる「ThisAbles プロジェクト」

  • 7.地域社会とコミュニティの生成|Brunello Cucinelli(ブルネロ・クチネリ)

  • 第6章 アクティヴィストのための10の弾丸

  • 1.多動する

  • 2.衝動に根ざす

  • 3.難しいアジェンダを掲げる

  • 4.グローバル視点を持つ

  • 5.手元にあるもので始める

  • 6.敵をレバレッジする

  • 7.同志を集める

  • 8.システムで考える

  • 9.粘り強く、そして潔く

  • 10.細部を言行と一致させる

  • 第7章 今後のチャレンジ

  • 1.フォロワーシップの醸成

  • 2.情報の拡散と共有

  • 3.クリティカル・ビジネスの製品やサービスの利用

  • 4.クリティカル・ビジネスへの関与

  • 5.資金提供と投資

  • 6.教育と学習

  • 7.ネットワーキングとコミュニティ